現時点での『ラ・グランハ / La Granja』に対する見解を纏めておこうと思います。
特にメカニズムに関しては知識が乏しいので、ツッコミどころあればコメントお願いします。
1) 『ラ・グランハ』は農場経営のゲームではない?
『ラ・グランハ』は農場経営のゲームです、とよく紹介されます。
In La Granja, 1‐4 players control small farms by the
Alpich pond near the village of Esporles on Majorca.La_Granja_Regel_US_web_150dpi.pdf
(以下、明記していない画像はここからの引用)
実際マニュアルにも小さな農場をコントロールすると書いてありますし、テーマの説明としては正しいです。しかしゲームを一度プレイすると...もしくはルールを聞いた段階で気づく人もいるかもしれませんが、これは農場経営をするゲームではないと気づきます。
例えば『アグリコラ』だと個人ボードである農場を拡大していき、最終的には農場の資産...家・畑・牧場・家畜や小麦・野菜の数、進歩カード(たまに職業カード)が点数へと結びつきます。ゲームの目的が農場資産の拡大になるので、紛うことなき農場経営ゲームだと言えるでしょう。
ところが『ラ・グランハ』の場合、個人ボードで勝利点に絡むのはほぼ屋根のみ。大抵は5つで10点です。稀に【43.倉庫建設者】の能力でさらに3点入ったりといったように、使用人(職業)でも勝利点は入りますが、初プレイでも60点前後は取れるゲームなのでメインとは言い難いです。
勝利点のほとんどは共用ボードからになっています。
ボード右端の昼寝トラックからも点数は入りますが、大抵は4~5点程度。勝利点の大半は村の施設か露店へ資材を運ぶことで得られます。
要するに『ラ・グランハ』は農場経営をするゲームというよりはむしろ輸送するゲームなのです。
...とは言え、「コレは資材を輸送するゲームです」よりは「コレは農場経営のゲームです」と説明した方が間違いなく喰い付きは良いでしょう。
農場経営 (をする) ゲームとは言い難いですが、 農場経営 (がテーマ) のゲームという言い方は、あえて誤解を招きつつ興味を引かせるにはいい表現かもしれませんw
2) 『ラ・グランハ』のメカニズム
では『ラ・グランハ』はどういうシステムのゲームなのか。正にココがこのゲームの面白さの秘密だと個人的には考えます。
BGGの"La Granja"のページではArea Control / Area Influence, Dice Rolling, Hand Management と分類されています。どれも輸送には関係ありません。
ボードゲームのメカニクス - 部屋とボードゲームと私と酒と泪と男と女 に掲載されているメカニクス一覧で最も近いのは、ピック&デリバリー (Pick-up and Deliver) だと考えます。
マップ上の資源を、別の場所へ配達(消費)することで何らかの効果が発生するメカニクス。資源獲得や配達は早いもの勝ちであることが多く、それによって「今、どのルートを通るのが最も効率がいいか?」に加え「他のプレイヤーは何を狙っているのか」というジレンマが発生する。資源獲得場所や配達場所がランダムに決まることもあり、この場合はゲームが毎回、ドラマチックに変化することになる。
ただし、ここで言う「ピック&デリバリー」は、あくまでマップ上の資源をマップ上の別の場所へと配達するもので、厳密に言えば『ラ・グランハ』はこのメカニクスには該当しません。『Steam』『Age of Industry』はやった事ないので何とも言えませんが、恐らく『ナイアガラ / Niagara』はピック&デリバリーに該当するでしょう。
画像引用元:Lupin's Weblog
下流にある宝石をピックして、上流にあるカヌー付き場へとデリバリーする。これが本来のピックアンドデリバリーであるという事をまず念頭に置いてください。
じゃぁ『ラ・グランハ』はどう違うのか。何をピックしてどうデリバリーするのか。
ピックするのは畑から産出されるオリーブ、穀物、ぶどうに加え、豚、銀貨、交易品の6種類。(プロモーションカードでは勝利点も輸送できます)
デリバリーする先は村の建物と、荷車を経由しての露店となります。
そしてもう1つ、『ナイアガラ』ではカヌーを動かすことでデリバリーしますが、『ラ・グランハ』ではロバタイルを使って輸送量を決めます。
『ラ・グランハ』的ピック&デリバリーにも、他の同メカニズムと共通している点があります。長所と短所です。
視覚的に理解しやすく、またテーマとも合致させやすいが、半面、資源を獲得して運ぶだけ、という感じでゲームが単調になる可能性もある。基本的には、メカニクスというよりはゲームの目的に近い。このメカニクスだけではジレンマは生まれにくく、その上にいかにジレンマを盛り込むかが鍵となる。
『ラ・グランハ』はルールが多い割には分かり易いゲームです。突き詰めれば資源を獲得して運ぶだけのゲーム。そして、ゲームが単調にならないような工夫こそが『ラ・グランハ』の他のメカニズムであり、ジレンマです。
BGGで分類されている「ハンドマネジメント」は手札に4種類の使い方がある事を指しますし、
「ダイスロール」は収入フェイズのことを指しますが、ダイスを取って何かしらの効果を発揮するメカニズムってのは実のところ「ワーカープレースメント」です。「エリアコントロール」は露店を指しますし、昼寝トラックはエリアではありませんが「マジョリティ」です。村の建物で得られるパネルは「拡大再生産」になっていますし、さらに屋根購入は得点効率を考えると実質的に「フードサプライ」の要素になっています。村の建物や荷車に必要な資材がそれぞれ違う辺りは「セットコレクション」でしょう。これらのメカニズムこそが『ラ・グランハ』を単調にさせない原因でもあり、ルールが多くなっている原因でもあります。
要するに『ラ・グランハ』とは様々なメカニズムを一度に楽しめるゲームなのです。
3) 『ラ・グランハ』とボトルネック
『ラ・グランハ』が単調にならない最大の原因はジレンマなのですが、その前に『ラ・グランハ』的ピック&デリバリーについてもう少し詳しく考えます。
上にも書いたように、『ラ・グランハ』は突き詰めれば「資源を獲得して運ぶ」ゲームです。これを要素として分類すると
a) 資源
b) 運ぶ場所
c) 輸送量
この3つが揃って初めて輸送することが出来ます。スタート時に運べる資源は1銀のみ、場所は村の建物のうちの3箇所、輸送量は1~4プラス1回だけ追加輸送可能となっています。
序盤は資源が無いので畑を増やしたり、収入フェイズで農業財を獲得することで補います。終盤は資源はあるものの運ぶ場所や輸送量が足りなくなりがちです。最も輸送効率を上げるには、足りないものをどう補うかという視点が必要になってきます。
要するに、『ラ・グランハ』とは輸送のボトルネックをいかに解消するか?というゲームなのです。
この観点から行くと、序盤は資源を増やす畑、拡張部では1銀や豚舎、資源獲得できる使用人が重要になります。輸送先は他にあるので荷車なんぞ必要ありません。ダイス目だと直接資源を得る1,3,4が重視され、6は2,3,4の下位互換にすぎません。村の建物では拡大再生産となる6銀、生産物3種、3交易品が効果的ということになります。
そして最も重要なのは、畑や拡張部自体を増やせる効果...ダイス目だと2、使用人だとカードプレイできるものが強いということにもなります。
後半になって拡大再生産が機能すれば、資源よりも輸送力がボトルネックになりがちですし、輸送する先が埋まってくるので荷車も必要になってきます。そして高得点の荷車にはたいてい加工品が必要です。拡張部ではロバが最優先、ダイス目では5,6が重視され、1や3を得ても4の下位互換になりがちです。後半でカードプレイできる使用人を使っても、自身でカードを使ってる分短期的なアドバンテージが得られにくいため、直接輸送量を強化する【20.梱包業者】のような使用人の方が強みを発揮してきます。
このように、『ラ・グランハ』は序盤では資源を増やすことに努め、後半はその資源をくまなく輸送できるよう輸送力と配達先を調達する。これが1つのセオリーです。
セオリーがきちんと固まっているということは、やることが決まっている。単調だとも言えます。
4) 『ラ・グランハ』のジレンマ
そこで必要になってくるのがジレンマです。『ラ・グランハ』におけるジレンマは主に3つ。昼寝トラック、村の建物、露店の3つです。
ロバタイルの選択は、「ボトルネックをいかに解消するか?」という観点と、資源はラウンドが進むに連れて増えていく前提に立てば、答えはひとつです。1,4ラウンドでロバ2、2,5ラウンドでロバ3、3,6ラウンドでロバ4を使う以外あり得ません。
しかし輸送量と昼寝トラックはトレードオフの関係で、輸送量を伸ばせば昼寝トラックからの勝利点が得られず、次のラウンドで後手に回されます。番手は序盤だと次のラウンドの収入フェイズでダイスの2が取れるかどうかに関わってくるため特に重要です。単純に輸送量を増やすか、あえてそのラウンドは輸送を抑え、次のターンの屋根やダイスロールに託すかに悩まされる事になります。
とは言え、実際のところ昼寝トラックでのジレンマが機能するのは序盤くらいなもので、ほとんどの場合は3,6ラウンドにロバ4を使いますし、2,5ラウンドもほぼロバ3が使われます。たまに前後する場合はあれど、6ラウンドでロバ1や2を使うことは (勝ちを目指している限り) 無いと言って差し支えないでしょう。
半分くらいしかジレンマが機能していない昼寝トラックとは違い、村の建物、露店はきっちりジレンマが利いています。「ボトルネックの解消」という視点でいけば、初めは村の建物へ輸送し、後半は露店へと輸送することになりますが、こと得点効率の観点からすると正反対になります。
村の建物で得られる勝利点はラウンド数と同じです。2ラウンド目なら2点、6ラウンド目なら6点。つまり早ければ早いほど拡大再生産の恩恵を受ける代わりに勝利点が少なく、拡大再生産の恩恵が下がる後半になればなるほど勝利点は高くなる... ここにジレンマが発生します。さらに勝利点だけでもジレンマが存在します。最も早く建物への輸送を完了させたプレイヤーには1勝利点のボーナスが、さらにまだ封印された建物が残っている場合には追加で1勝利点貰えつつ、新たに輸送先が開放されます。
得点効率だけで考えると村の建物は後半に輸送を完了させた方が得で、それを最大化させようとするとルパンさんがよくやっている「6ラウンド目で一気に4~5箇所の建物を完成させる」方法になります。
露店は村の建物とは違い、直接得られる勝利点に変わりはありません。しかし露店が残り続ければ毎ラウンド1勝利点が入るため、ほとんどの場合は早ければ早いほど得点効率は上がります。露店の得点効率だけで考えると1ラウンド目から積極的に露店を建てた方が得です。ただしこの理屈はあくまで建てた露店が他のプレイヤーに除去されないのが前提となりますし、序盤に荷車を作るということは畑などで生産に回せるカードを使ってるわけで、生産力とのトレードオフになっています。ここにもジレンマが発生しています。
要するに『ラ・グランハ』とは「輸送効率」と「得点効率」のジレンマをどう調整するか?というゲームなのです。
5) 『ラ・グランハ』のランダム要素
『ラ・グランハ』を面白くさせる最大の原因はジレンマですが、まだこれだけでは足りません。
確かに「輸送効率」と「得点効率」はジレンマを生みますが、突き詰めれば妥協点を固定することが可能です。
①か②へとまず輸送し、③で輸送量を増大させた後に荷車を3つ並べ、④を完了させてから露店を3つ建てて、得られた交易品を⑥に運ぶ。コレがこのゲームの最適解という訳ではありませんが、例えばこんな感じでゲームを進めれば毎回75点は期待できます... ランダム要素が無ければ。何回やっても似たような展開にしかならないのなら、リプレイ性は落ちます。何度も遊びたいとは思わないでしょう。
そこで必要になってくるのがランダム要素です。『ラ・グランハ』におけるランダム要素はダイスロール、村の建物の封印箇所、そして手札です。
ダイスロールは分かり易いので説明は省略するとして、村の建物の封印はかなり展開を左右します。特に拡大再生産に多大な影響を与える②の生産物3種建物が封印されていると、いかに資源をやりくりするかがさらに重要になってきますし、③の加工3種建物が封印されていると、輸送量がさらにタイトになりがちです。
そして最も影響が大きいのが、一度プレイすれば分かるとは思いますが手札です。
画像引用元:ボドゲなチラ裏 和訳シール作ってみた。ラ・グランハ
例えば序盤から【4.農民】のような強力なカードプレイできる使用人がいれば、序盤にボトルネックとなりがちな資源に余裕が出るため、得点効率を重視する戦略が取れるでしょう (このカード自体は勝利点を失いますけども) 。
【14.親方】がいれば手番を早めることにさらなるメリットが生じますし、【66.長距離交易人】がいれば何度も交易品を作る (=露店を建てる) ことが重要になってきます。
ランダム要素によって状況に変化が起き、その都度何を優先すべきか...概ね「輸送効率」を優先すべきか、「得点効率」を優先すべきか判断する必要が出てきます。
要するに『ラ・グランハ』とは状況によって「輸送効率」と「得点効率」のうちどちらを優先すべきか判断するゲームなのです。
まぁコレに関してはどのゲームにおいても概ね当て嵌まることでしょう。「輸送効率」「得点効率」という項目には違いはあれど、状況に応じて何がベストかを判断するのがゲームといって差し支えないと考えます。
一応断っておきますが、個人的に『ラ・グランハ』の攻略パターンとして「輸送効率」「得点効率」の2つの軸があるとは考えてますが、他に軸となりうる考え方があるかもしれません。
6) オマケ
ついでなんでカードのデータ載せておきます。
畑と増設部は割とテキトーに組み合わせてるんだなぁと(苦笑)